気にしすぎ

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誰しも、好きな人のことは気になってしまうものだ。

好きだから気になる。
もっとその人のことを知りたくなる。
それは当然のことじゃないだろうか。

というか、気にならないなら、それは好きじゃないということだ。
好きの反対は嫌いじゃなく、興味がない、なのだから。

「美奈子ちゃんって、昔は一重だったのか……。ってことは手術したのか?」

俺はいつものように、部屋でパソコンに向かい、今、俺の中で激推し地下アイドルの美奈子ちゃんについての情報を漁っている。

今日は日曜日で学校が休みだから、昼でも、こうして趣味に没頭できるのだ。

「キモっ!」

そんな俺に面と向かってディスってきたのは、ベッドの上で漫画を読んでいる北原円佳だ。
北原は、俺のクラスの委員長で、何かと俺に絡んでくる。

本人曰く。

「あんたは生活がだらしないから、委員長として教育してあげてるってわけよ」

らしい。

ただ、多少はだらしないというのは認める。
だが、言うほどじゃない。

2日に1度、夜更かしして寝坊するのと、3回に1回しか宿題をしないのと、学校をさぼってライブに行くくらいだ。
いくらなんでも、大げさすぎる。

で、担任に怒られ続けていると、そこに北原が乱入してきたというわけだ。
いつも朝、学校に行くときに迎えに来るし、帰りは委員会が終わるまで待たされて一緒に帰らされている。
そして、今日みたいな休みの日も、平然と部屋に押しかけてくるのだ。

これじゃ教育というより監視だ。
俺にはプライベートというものがないのだろうか。

「女の子の過去なんか、根掘り葉掘り調べるなんて、気持ち悪いわよ」
「なんでだよ」
「誰にだって、知られたくない過去くらいあるでしょ」
「好きなら、そういうのも知りたいって思うのが普通だろ?」
「じゃあ、なに? 過去に変なことしてたら、嫌いになるってこと?」
「程度にもよるけど、別に多少のことは気にしないさ。好きなんだからさ」
「それなら、知る必要ないじゃない」
「違うって! 必要があるないじゃなくて、単に知りたいだけだって」
「……よくわからないわ、その気持ち」

顔をしかめる北原。

理解できないのも、まあわかる。
けど、アイドルオタクはそういうものだ。
推しのことは、どんな小さいことでも知りたい。

なぜなら、好きだからだ。
好きな人のことなら、なんでも知っておきたい。

再び、漫画に視線を落とす北原。

そして、俺は再び、美奈子ちゃんの情報を集めるべく、ネットの海を徘徊する。

それから1時間ほど時間が経った頃。

部屋がノックされ、部屋の外から声を掛けられる。

「円佳ちゃん、お昼ご飯作ったけど、食べていかない?」

母親の言葉を聞いて、北原はすぐにベッドから降り、床に正座する。

「あ、はい。ありがとうございます。いただきます」

北原がそういうと、ゆっくりとドアが開く。

母親がトレイに2人分のチャーハンを乗せて持ってきたのだ。
そして、部屋の真ん中にあるちゃぶ台の上に置くと、チラリと俺の方を見て笑う。

「じゃあ、ごゆっくり」

そう言って部屋から出て行ってしまった。

北原はいつの間にか俺の母親とも仲良くなっていた。
そのせいで、こうやって部屋に押しかけられるようになったのだ。

「ほら、食べるわよ。こっち来なさい」
「あ、ああ……」

本当はネットをしながら食べたいが、それをすると行儀悪いとキレられてしまう。
ここは大人しく、北原に従うしかない。

黙々とチャーハンを食べることに専念する。

「ねえ?」

いきなり北原が話しかけてくる。

「なんだ?」
「あんた、チャーハン好きなの?」
「なんでだ?」
「ほら、この前もおばさん、お昼にチャーハン作ってたでしょ?」
「ああ。それは俺が好きじゃなくて、母さんの得意料理がチャーハンってだけだ」
「へー、そうなんだ」

なるほど、と頷きながらチャーハンを口に運ぶ北原。
俺も、また黙々と食べ始める。

「じゃあ、何が好きなのよ?」

再び、北原が話しかけてくる。

「ん? まあ、普通にカレーとか? ハンバーグとか」
「子供ね」
「うるせ」
「嫌いなものは?」
「ピーマンだな。あと、にんじん」
「は? にんじん、美味しいじゃない!」
「いや、不味いだろ」
「……ホント、子供舌ね」
「……うるさいな」

チャーハンをすくって口に入れる俺。

「あんた、巨乳好きなの?」
「ぶっ!」

思わず吹き出してしまった。

「な、なんでだよ?」
「その、美奈子ちゃんだっけ? その子も胸が大きいみたいだし、あんたが持ってる漫画のヒロインって、全員、巨乳じゃない」
「ぐ、偶然だよ……」
「ふーん……」

びっくりした。
そんなところから、まさか性癖がバレるとは。

「年上と同年代、年下、付き合うならどれがいい?」
「え? えーと、付き合うのだろ? なら、同年代かな?」
「スカートとズボンはどっち好き?」
「スカート?」
「髪は長い方が好き? 短い方がいい?」
「長いの」
「デートはリードされる方がいい? それともしたい方?」
「んー。リードされた方が楽かな」
「映画館と遊園地、デートするならどっちがいい?」
「デートなら遊園地」
「性格がキツイ女の子はやっぱり嫌い?」
「程度によるけど、あんまり気にしないかな」
「結婚は何歳くらいまでにしたい?」
「は? 結婚? えーっと、よくわからんけど、25くらい?」
「子供は何人欲しい?」
「そうだな、ふた……って、ちょっと待て!」
「なによ?」
「なんなんだよ、さっきから! 質問攻めして」
「あー、いや……」

北原は顔を赤くしながらうつむいてしまう。

まったく、何を考えてるんだか。

俺はその隙にさっとチャーハンを平らげる。
そして、すぐにパソコンに向かい、ネットサーフィンを再開する。

「……なんとなく、わかったかも」

北原がつぶやく。

「なにがだ?」
「なんでも知りたくなるって話」
「ん? まあ、よくわからんが、わかってくれたならいい」

ホント、北原は時々、何を考えているかわからないことがある。

終わり。

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