ポッキーゲーム

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それは何気ない、いつもの放課後のことだった。
掃除が終わった誰もいない教室で、二人でダベる。

その日もそうするはずだった。

なのに、だ。
どうして俺は、こんなことをしてるんだ?

あまりの急展開に、俺の頭の中は真っ白になる。

……俺は今、なぜか友梨佳とポッキーゲームをしているのだった。

「悠斗てさ、友梨佳ちゃんのこと、好きだよな?」

今日発売の雑誌の漫画を回し読みしているときに、いきなり隼人がそう言った。

「何言ってんだ、お前?」
「いや、いい加減にイライラするんだよ、こっちは。お互い好きなくせになかなかくっ付かないお前らのことを見てるとさ」
「ちょ、ちょっと待てよ。そもそも、俺は友梨佳のことなんて、なんとも思ってない」
「ホントに?」
「ホ、ホントだよ」
「じゃあさ、もしも、友梨佳ちゃんの方から告白してきたらどうだ? オッケーするか?」
「……あっちから言うなら、まあ、付き合ってもいいかな」

俺がそういうと隼人は大げさにため息をつく。

「お前さぁ。普通、男側が告白するもんなんだぞ」
「いや、違うって。あくまであっちが頭を下げれば、付き合ってやってもいいってだけ。こっちが頼むなんて、冗談じゃねえ」
「……まあ、いいや。友梨佳ちゃんが告白すれば付き合うんだよな?」
「あっちが、言ってくればな」
「よし!」

パチンと隼人が指を鳴らした。
すると、ガラガラと教室のドアが開き、桜田に腕を引っ張られながら友梨佳が入ってきた。

「うおっ!」

まさか、今までの話を聞かれてたのか?

俺は驚いて思わず、立ち上がってしまった。

「だってさー、友梨佳。告白すれば、悠斗くん、付き合ってくれるってさ」

桜田に腕をつかまれている友梨佳は顔を真っ赤にしている。
かと思っていたら、顔を上げて、俺をギロリと睨みつけてきた。

「なんで、あたしが、こんなバカに告白しないとならないのよ!」
「な、なんだと! バカってなんだよ!」
「バカにバカって言って、何が悪いのよ!」

ホント、友梨佳は口が悪い。
こういうところが、こいつのダメなところだ。

「あー、わかったわかった。じゃあ、ここは勝負で決めよう」

隼人が膝を叩いた後、人差し指を立てて言った。

「負けた方が告白する、これでどう?」

隼人の言葉に桜田が乗っかってくる。

「じょ、冗談じゃねー。なんで、俺がこいつに告白しないとならないんだよ?」
「それはこっちの台詞! こんなバカに告白なんて寒気するっての!」

友梨佳が睨んできたから、俺もにらみ返す。

「なら、勝てばいいのよ。勝てば相手に屈辱的なことを言わせられるのよ?」
「そうそう。勝負に勝ていいだけなんだからさ」

桜田と隼人が俺と友梨佳の間に入って、そう言った。

「けど……」

友梨佳が視線を落としながら、戸惑っている。

「なに? 友梨佳。『こんなバカ』に勝つ自信ないの?」
「あ、あるわよ! 余裕でね!」

友梨佳がムキになって言う。
そんな友梨佳を見て、俺もイラっとする。

「勝てるよな? 悠斗?」
「当然だ!」

すると隼人と桜田が顔を見合わせて、大きく頷く。

「じゃあ、勝負の内容を発表するね。それは……」
「ポッキーゲームだ」

なぜか、連携がばっちりの桜田と隼人によって、勝負の火ぶたが切って落とされたのだった。

で、今に至るわけだ。

ポッキーの両端を俺と友梨佳が咥えている。

「いい? ルールは簡単。お互い、交互にポッキーを食べていって、キスした方が負けね」
「自分がどのくらい、ポッキーを食べ進めるかは自由だ。そこは駆け引きで食べ進めてくれ」

色々文句を言いたいが、すでにポッキーを咥えているので言えない。
それはどうも友梨佳も同じようだ。

「じゃあ、よーいスタート!」

ついに勝負の火ぶたが切って落とされた。

「じゃあ、まずは友梨佳の番」

桜田にそう言われて、友梨佳は1センチほど食べ進める。

「次は悠斗だ」

ふん。プレッシャーをかけてやる。

俺はいっきに3センチほど食べ進める。

こうして、交互にポッキーを食べていき……。

気づけばかなりお互いの距離が近くなっている。

もう、お互いの鼻が触れるくらいの距離だ。

「次、悠斗」
「次、友梨佳」

もう、お互いミリで進む。
それも、限界が来ている。

友梨佳の唇はすぐ近く。

友梨佳がほんの少し、食べ進める。
もうダメだ。
唇が当たる――。

そのとき、カチという音が鳴った。

そして、歯に衝撃が走る。

「あっ……」

隼人がそう呟いた。

今、俺と友梨佳の歯が当たり、弾かれてしまったのだ。
その衝撃で顔が離れてしまう。

「……どっちの負け?」

桜田がそう言ったので、俺は友梨佳を指差す。
すると友梨佳も俺を指差していた。

「ったく」

隼人が顔を手で覆う。

「だっさ」

ポツリと友梨佳がつぶやく。

「あ?」

友梨佳の言葉にカチンとくる。

「歯に当たるなんて、キス下手すぎでしょ」
「アホか。あれはポッキー咥えてたからだっつーの」
「嘘つきなさいよ。必死だったの知ってるわよ」
「はあ? んなことねーって」
「はいはい。言い訳言い訳」
「俺、キス、上手いって」
「口ではなんとでも言えるわよねー」
「お前なぁ!」
「ごめんごめん。悠斗に期待した私がバカだったわ」

カッと頭に血が上るのを感じた。
俺は咄嗟に友梨佳の肩をつかみ、そして、キスしてやる。

「な? 上手いだろ、キス」
「……」

友梨佳がポーっと呆けた顔をしている。

「よし、悠斗の負けだな」
「え? ……あっ!」

つい、カッとなって俺の方から友梨佳にキスをしてしまった。

「けど、あれは……」
「なんだよ、負けたのに言い訳か?」

隼人にそう言われて、俺はムッとするが仕方がない。
負けは負けなのだ。

「……友梨佳。その……好きだ、付き合ってくれ」

友梨佳は顔を真っ赤にして、頷いた。

……まったく。
なんで、こんなことになっちまったんだ?

終わり。

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