いつからここにいるのかは、もう思い出せない。
気づけば、私はクイーンサイズのベッドの上で、毛布に包まって震えていた。
私がいるのは殺風景でベッド以外のものはなく、窓さえもない陰鬱な部屋だ。
ベッド以外にあるのは、たった一つ。
木のドアだ。
でも、そのドアは開くことはない。
メアリーの話では『凍っている』らしい。
「部屋を出る必要なんてないんだよ」
隣で毛布に包まっているメアリーが言う。
「別に出たいなんて思わないよ」
私がそう答えるとメアリーはにっこりと笑った。
短く切りそろえられた金髪で、そばかすがあり、青い大きな瞳をしたメアリー。
年は私と同じ、8歳だ。
「同じ年なのは当たり前よ。だって、私たち双子なんだもん」
私とメアリーはそっくりらしい。
ただ、私はそれを確認する方法はない。
なぜなら、この部屋には鏡がないからだ。
そして、私はもう、自分の顔がどんなんだったかを覚えていない。
「外はね。すっごく寒いんだ。雪が降っているし、怖い狼だっているんだよ」
メアリーが震えながらそう言った。
あまりにもメアリーがおどろおどろしく言うものだから、私まで怖くなってくる。
「ここにいれば安全だから」
メアリーがそう言って笑う。
私はそのメアリーの笑顔を見ると安心する。
それに毛布をかぶっていれば温かい。
この暖かさとメアリーがいれば、それでいい。
私はそれ以外、何もいらない。
「それでいいんだよ」
メアリーが言う。
私もそう思う。
ここにいれば安心と温かさがある。
ずっとここにいれば、寒さも怖さも感じなくて済む。
それでいい。
「メアリー! メアリー!」
どこからか、声がする。
私を呼んでいる。
誰だろう?
「聞いちゃダメ。あれは悪魔よ」
メアリーが言う。
悪魔は怖い。
きっと、狼よりも怖いんだろう。
「ここにずっといればいいんだから」
メアリーが言う。
でも。
「メアリー! 起きて、メアリー!」
私を呼び続ける声がする。
「気にしちゃダメよ」
メアリーが言う。
でも、私は思い出した。
「お母さんの声だ」
私は包まった布団から出る。
部屋の中は寒い。
「戻って。外は寒いよ。怖いよ」
ベッドの上のメアリーが言う。
それでも私はドアの方へ向かう。
「開かないよ。だって、凍ってるんだもん」
メアリーが言う。
でも私はドアノブをつかんでひねる。
ドアが開いた。
凍ってなんていない。
そして、外は雪なんて降っていない。
明るく、光にあふれている。
「行くの?」
「うん」
「外は寒いし、怖いよ?」
「うん。そうかもしれない。でも、私は行くよ」
「そっか」
「今までありがとね」
「ううん。いいの」
メアリーが笑う。
そして、メアリーがこう言ってくれた。
「いってらっしゃい」
私は外に出る。
光があふれている方向へ、進み始めた。
終わり。
コメント