背伸び

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早く大人になりたい。

女は男よりも早く精神的に成長する。
そんな言葉をどこかで聞いたことがあった。

その言葉を聞いたとき、私は妙に納得した記憶がある。

だって、周りの男子は本当に子供で、下品で、恋の対象には見れなかった。
で、そんな私が大人の男性……先生に恋するのは必然だったのかもしれない。

高校生なんて、今思うとまだまだ子供だった。
でも、その当時は子供と大人の中間だと思い込んでいた。
子供であり、大人でもある。
そんな感覚だった。

……そんなふうに考えてる時点で、子供なんだけど。

そして、私は先生に告白した。

「いや、無理に決まってるだろ。俺を無職にさせたいのか?」

なんとも色気のない答えだ。
最低と言ってもいいんじゃないだろうか。

でも、その当時の私はそれが格好いいと思ってしまった。
なんていうんだろう。
その軽くあしらった感じが大人に見えたのだ。

ホント、子供だよね。
今考えると恥ずかしいくらいだ。

あとは、先生がある意味、日和ったというか常識的だったというか、とにかく断ってくれて助かった。
もし、あのまま付き合っていれば、2人ともどうなっていたかわからない。
先生は退職することになり、私も進学することはなかっただろう。

ただ、先生に断られてから、私はとにかく、早く大人になりたいと足掻いた。

バイト、化粧、新しい服、マニュキュア。

とにかく、大人っぽいことをひたすら試した。
そのせいで、高校時代はバイトの思い出しかない。

……もったいないことしたよ、本当にさ。
やっぱり、あの頃の私はどうしようもなく子供だったんだ。

バイトに明け暮れていた私だったけど、親のおかげでどうにか大学は出ることができた。

大学じゃ、ちゃんと大人の恋をするぞーって気合を入れたんだけどね。
やっぱり、どうも、同年代の男の子は子供にしか見えない。

サークルでバカやったり、ナンパしたり、粋がってちょっとした悪さをしたり。
本当に馬鹿みたいにしか見えなかった。

じゃあ、今度は教授に、なんて思ったりもしたけど、うちの大学の教授は若くても40代。
さすがの私も、そこまで年上の男の人と付き合う気にはなれなかった。
それならバイト先で、とも思ったけど、無理して入った大学を出るのに必死で、バイトなんてあまりできなかった。

そうこうしている間に、4年間なんてあっという間に過ぎていく。
大学で、色恋沙汰なんて、2、3回合コンに行ったくらいだろうか。
どれも、途中で馬鹿馬鹿しくて途中で帰ったけど。

一応、勉強と就職活動を頑張ったおかげで、私は結構、いい会社に就職することができた。

最初の2年は仕事を覚えるので必死だったけど、3年目にもなれば仕事も覚えてきたし、下に人が入ってきたりして、随分と余裕になってきた。

となれば、ようやく恋愛に目を向けられる。

会社の飲み会で、同期の男の子と良い雰囲気になり付き合うことになった。

でも、なんだろう……。
やっぱり、子供なんだよね。

休みの日といえばゲームばっかりやってるし、身の回りのこともよく出来ない。
何かあっても、面倒くさがって先延ばしするし、ギリギリになっても決断できない。

私はすぐにその同期と別れた。

となれば、次に狙うはもう少し上の年代。
30代後半から40代前半だろうか。
さすがにそのくらいの年齢なら、大人だろう。

けど、その年代は割と結婚している人が多い。
そして、結婚していない人は……なんていうか、お察しというやつだ。

そんな中、私は部長からアプローチされた。
もちろん、部長は妻子持ち。

付き合うとしたら不倫になる。

不倫。
不倫か……。

なんとなく、大人の雰囲気がする言葉だ。
部長は41歳。
私から見ても、部長は大人に感じる。
なんていうか、高校生の時に先生を見ているような、そんな感覚。

とはいえ、さすがに不倫はどうなんだろうという気負いはある。
そこで、入社時からお世話になっている女の先輩に相談することにした。

「あんた、子供ね」

先輩は呆れたようにため息をついた。

「え? 私が、ですか?」
「高校から変わってないよ」

私は相談するにあたり、結構、今までの自分の恋愛観を話していた。

変わっていない?
そんなことはないはずだ。

高校の時、あれだけ憧れた先生。
あの頃の先生は20代だ。
でも、今ではそんな20代の男子は子供っぽくて受け付けなくなっている。
それって、私が子供じゃなくなったからじゃないのだろうか。

「考え方が変わってないじゃない」
「……どういうことですか?」
「男なんて、そんなもんなんだって」

先輩の言ってることがわからない。

「男なんてさ、子供だよ。ずーっとね」
「……」
「それがわからないうちは、あんたも子供ってこと」

やっぱり、先輩が言いたいことが全く分からない。
それは私がまだ子供だから?

先輩がそういうのなら、たぶんそうなんだろう。

はあ……。
私は大人になってたつもりだったけど、まだ子供なのか……。

早く大人になりたい。

終わり。

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