レッドカード

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人には譲れないものがある。
一発、レッドカードというものが存在する。

私はそれを見分けるのが上手いと自負している。
それは生き残るため。
教室内で無事に過ごすために身に着けたスキルだと言ってもいい。

学校で無難に生活するために、やること。
それは先生の評価を上げる。
これは学級委員長になることでクリアした。

次に教室内での地位。
まずはテストの成績の上位を取ること。
そして、虐めの対象にならないこと。

委員長になったことで、多少はやっかみが生まれる。
だから、私がやれることは1つ。
虐められる前に、虐める人を見つけることだ。

その子が虐められているという雰囲気を作ってしまえば、自分は安全圏にいられる。
周りもそう思うから、1人が人身御供になれば、クラスの虐めはその子に集中する。

でも、ここで注意が必要だ。
それはやり過ぎないこと。

相手に自殺なんてされたら、もう終わり。
世間的に叩かれる上に、今度は私がいじめの対象にされる。
『委員長があの子を虐めていたんだ』という流れになるのは目に見えている。

だから、虐める相手にはギリギリのラインを責める必要がある。
自殺も心配の一つだが、相手のレッドカードラインに入って反撃されても終わりだ。
反撃されて怯んだりすると、途端に私は『弱者』にされる。
虐めのターゲットが私に移るなんてことも考えられる。

なので、生かさず殺さずが一番いい。
そこで、私のレッドカードラインの見極めのスキルが役に立つ。

虐める相手を見極めて虐め始める前にやることがある。
それはその子の情報収集。

その子はクラスでも目立たなく、友達もいない。
だから、『委員長』として話すことにした。
あくまで、心配だからというテイで。

「……私、昔から友達がいなくて」

悲しそうな顔をして話始めた。

「私に近づいてくる人は、いつも私に意地悪ばっかりするんだ。……だから、私、いつでも私の味方をしてくれる、私を守ってくれる友達が欲しいんだ」

私はこの話を聞いて、どういう方向で虐めていけばいいかがわかった。

それは『その子の友達』というテイを取ること。

その子は友達を求めている。
だから、その友達の穴を埋めてやればいい。
『友達』のいうことなら、その子は何でもやる。

友達としてパシリをお願いして、友達としてイジリとしてバカにする。
とにかく、友達として虐めていけば、その子は反抗もしないだろう。
あとは自殺しない程度にセーブしていけばいい。

ただ、いきなり友達というと胡散臭いから、私はまだ委員長として接した。
そこから仲良くなり、仲良くなってから、虐めを開始する。

1ヶ月くらい話すようになったとき、他の子がその子に少し意地悪をした。
その子はその意地悪に、笑って済ませた。

ここから一気にいじめが加速した。

私の計画とは少し外れたけど、その子が虐めの対象という認識がクラスの中にできた。
もちろん、私もその虐めに加わる。
庇うなんてことしたら、私ごと虐められる。

でも、その子のレッドカードラインを踏まないように、『友達』ポジションを早めに出さなきゃならない。

どうしようかと考えていたときだった。

その子に掃除当番を押し付けていたところを先生に見られた。

「おい、何してるんだよ? 今日の掃除当番は委員長だろ?」

マズい。
ここで教師の心証を悪くするわけにはいかない。

「私が言ったんじゃなくて、代わってあげるって言われたんですよ」
「本当か? 委員長だからって押し付けたんじゃないのか?」
「違いますよ」

そこで私はちょうどいいタイミングだと思い、こう続ける。

その子とは友達なんです、と教師に言う。
これは教師と、その子に対しての言葉だ。

その言葉を聞いて、教師も納得したし、何よりその子も目を丸くしてビックリしていた。
ここで『友達』という認識をさせておけば、なにかあったとしても、私のことを責めたりはしないだろう。

そして、その子は私を見て、真剣な顔で念をしてきた。

「私と友達なの?」
「うん。そうだよ。もう、私たち、友達だからね」

そう言って笑って見せる。
するとその子は暗い、落ち込んだような表情をした。

私はおかしいなって思った。
ここは喜ぶと思ってたから。

その子はいきなり、自分の席に行き、自分のカバンを漁り始めた。
そして、何かを取って、また私のところへ戻ってきた。

「あのね。もう一回、確認したいんだけど、私たち、友達なの?」
「もちろんだよ」

私が即答すると、「そう」と言ってその子は俯いた。

するとその子は持っていたナイフを振りかざして、私の胸に突き刺す。
私は何の抵抗もできなかった。

気がついたら仰向けになって倒れていた。
口からは血が沸き上がってくる。

意外なことに苦しさや痛さは感じない。
ただ、胸が焼けるように熱い。

その子が私の上に跨る。

そして――。

「違う! 違う! 違う! 違う!」

そう叫びながら何度も私の体をナイフで突き刺していく。

もう、熱さも感じない。

私の頭の中にはただただ疑問だけが残る。

何がダメだったんだろう?
何がその子のレッドカードラインだったのだろうか。

友達が欲しかったはずだ。
本人もそう言っていた。
だから、私は友達になってあげようとしたのに。

だけど、答えが出ることもなく、私の意識は暗闇に落ちていったのだった。

終わり。

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