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その日は、2月14日だった。
つまり、バレンタインデーというやつである。
その日の学校内はなんか、色めき立っていたというか、キャッキャウフフといった状況だった。
リア充じゃない俺からしたら、実に不愉快な日だったということだ。
そして、その日の放課後。
掃除も終わり、教室内には俺しかいない。
そんな状況で俺はカバンから大量のチョコレートが入った袋を出す。
その中から1つを出して食べる。
実に甘くて美味しい。
何個かチョコを食べていると、ガラガラとドアが開いた。
「ん? あれ? 幸平、なにやってんだ?」
教室に入ってきたのは正芳だ。
小学校から腐れ縁で、まあ、俺の数少ないうちの友達になる。
「チョコ食ってる」
「なに? お前、こんなにチョコ貰ったのか?」
正芳が俺の机の前の椅子に座って、こっちを見る。
「……俺がチョコを貰える人間じゃないって知ってて言ってるだろ?」
「まあな」
「即答するのは、それはそれでムカつく」
「……で、なにやってんだ?」
「チョコ食ってる」
「だーかーら! なんで、放課後の誰もいない教室でチョコ食ってんだって話だよ」
正芳は無断で袋に手を突っ込み、チョコを一つ出して食べ始める。
ったく。そういうとこだぞ。
図々しいって言われるのは。
「チョコなんてさ、別にもらわなくたって、買えばいくらでも食べれるって話だろ?」
「……そういうことじゃないと思うんだけどな」
「このクラスで、こんなにたくさんチョコを貰った奴はいなかった。そして、俺は1個ももらえなかった。けど、俺はクラスで一番チョコを多く食ったやつになる。なんか、勝ったって感じがするだろ?」
「……お前。それ、自分で言ってて悲しくならないか?」
「うるさいな」
俺はもう一個袋からチョコを出して食べる。
「けど、お前。こんなにチョコ食ったら、鼻血出るぞ」
「……なんだよ、そりゃ?」
「あれ? 知らねえの? チョコって食いすぎると鼻血出るんだってさ」
そう言って、正芳がもう一個チョコを食べる。
「そんなの迷信だろ。どうせ、バナナの皮を踏んで転ぶくらい、あり得ないんじゃないか」
「確かに、バナナの皮で転んだ奴は見たことないよな」
「あと、しゃっくり100回したら死ぬとか」
「あー、聞いたことある。くしゃみすると誰かが噂してるっていうのも、迷信だよな」
「牛乳を飲むと背が伸びるのも迷信らしいな」
「え? そうなのか? 俺、子供の頃、めっちゃ飲んだけどな」
「カルシュウムで骨が強くなるけど、背が伸びるわけじゃないんだってさ」
「へー。すごい有名なのにな」
次々とチョコを食べ続ける俺と正芳。
「あとはクマに会ったら死んだふりすればいいとかあるよな」
「あれって、実際には自殺行為なんだってな」
「黒猫が横切ると縁起が悪いとか」
「酢を飲むと体が柔らかくなるっていうのもあるよな」
「火遊びするとおねしょするとか」
「夜に口笛を吹くと、獣が寄ってくるっていうのもあるよな」
俺と正芳は交互に迷信を言っていく。
まるで古今東西のように。
しかも、言った後にチョコが食べられるみたいなルールが自然と出来上がっていく。
チョコの包み紙の数が勝敗を決するという雰囲気になる。
「ワカメや昆布を食べると髪の毛が増える」
「風邪は人に移すと治る」
次々と知っている迷信をひねり出していく。
もうそろそろネタがつきそうだと思ったときだった。
「この時間なら、いつもこの教室空いてるんだよ」
そう話しながら2人の女子がカバンを持って、教室に入ってくる。
2人は全くこっちに気づいていない。
「更衣室、もう少し大きくしてくれればいいのにね」
入ってきた女子はなにかユニフォームみたいなのを着ている。
運動部か何かだろうか。
いきなり着替え始める。
そして、一方の女子がなんと、おもむろにユニフォームのズボンを下ろした。
つまり、パンツが露わになる。
「ぶっ!」
それを見た瞬間、俺の鼻から血が噴き出した。
「え? きゃああーーー!」
「なんで、男子がいるのよー!」
2人は慌てて着替えるのを止めて教室を出て行ってしまった。
残される俺と正芳。
そして、教室は沈黙に包まれる。
だが、正芳がポツリとこう言った。
「エロイものを見て鼻血出す奴、初めて見た」
うるさいな。
俺も初めて出たよ。
終わり。
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