鍵谷 端哉

短編小説

終わりの言葉

 さよなら。  別れましょう。  もう二度と会わない。  それらは終わりを意味する言葉だ。
短編小説

見守ってくれた存在

 両親はとても忙しい人で、いつも家にいなかった。  だから、私にとって、キョウが親代わりであり、兄の代わりであり、友達の代わりだった。 「雫は寂しくないのかい? 家に一人だけなんて」 「ううん。寂しくないよ。だって、キョウちゃんがいるから」
短編小説

記念日

 加奈子に出会ったのは28歳の5月21日だった。  日曜日に散歩をしていたら、何気なく高台にある小さな展望台が目に入り、天気が良かったので行ってみたのだ。  そこで1人、景色を見ていたのが加奈子だった。  俺はどちらかというと人見知りで、あまり自分から人に話しかけたりはしない。  なのに、そのときはなぜか、俺の方から話しかけていた。
短編小説

本気になったら、もう終わり

 私は22歳のとき、大失恋をした。  というより、騙されたのだけれど。  相手は結婚詐欺師で、私から全てを奪っていった。  両親が遺してくれたお金と家。  相手のためなら死んでもいいと思えるほどの恋心。
短編小説

損な人生

 僕は生まれつき、体が弱い。  だから、よく風邪をひいて寝込んだりする。  そして、学校行事があるときに限って熱を出してしまう。  遠足や運動会、学芸会、修学旅行。  小学校の時はほとんど、参加できなかった。
短編小説

気にしすぎ

 誰しも、好きな人のことは気になってしまうものだ。  好きだから気になる。  もっとその人のことを知りたくなる。  それは当然のことじゃないだろうか。  というか、気にならないなら、それは好きじゃないということだ。  好きの反対は嫌いじゃなく、興味がない、なのだから。
短編小説

君からの手紙

「どんなに離れてても、心は一緒だからな」  就職が遠くに決まり、遠距離恋愛になったときに言った、彼の言葉だ。  そのときは少しくさいセリフだなって思ったけど、嬉しいという気持ちの方が勝っていた。  私も、同じ気持ちだったから。
短編小説

君の抜け殻

 ある日の日曜日のこと。  俺の部屋に、友人の友広を呼んで掃除を手伝ってもらっている。 「おい、晴樹。これ、どうする?」 「捨てで」 「マジか。もったいねー」
短編小説

黒色

 セシリアは黒色が好きだった。  なぜなら、すべての色を塗りつぶすことができるからだ。  そのことに気づいたのは3歳の頃。  両親に絵描き用の画用紙を買い与えられたとき、そのすべてを真っ黒に塗り潰した。
短編小説

いつもの台詞

 私が好きになった人は、決まって同じセリフを言う。 「あなたに釣り合う男になってみせる」  そう言って、危険な冒険へと旅立ち、そして二度と帰って来ない。  時々、魔物によって殺されただの、ダンジョンの罠にハマって死んだなどの情報が入ってくるくらいだ。  なんで男ってやつは気づかないのだろう。  釣り合う男になるよりも、近くにいてくれる方がいいのに。
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