調子に乗るといいことない

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「ごめんなさい。好きな人がいるの」

「拓真くんって、いい人だけど恋愛対象に見れないのよね」

「無理」

今年に入ってから、既に5人以上にフラれた。

なぜだ?
どうして、ここまで俺はモテないんだ?
別にハーレムなんか望んでいない。
たった一人でいい。
たった一人でも俺を好きになってくれる女の子はいないんだろうか。

「本気じゃないって思われてるんだよ」

休み時間。
康太に相談すると、呆れた顔をして、そう言われた。

「はあ? そんなことねーって! 全員、本気だっての!」
「いや、1年で5人に告白するって、完全に数撃ちゃ当たるって感じだろ」
「……そ、そんなこと、ない」
「……なんで、そこで声が小さくなるんだよ」

確かに康太のいうとおり、想いが募って我慢できなくなって告白するというわけじゃない。
少し好きになったら告白していた。

「どうすればいいんだ?」
「むやみやたらに告白するのを止めればいいだけだろ」
「……」
「なんで黙るんだよ?」
「いや、だってさ。告白しないと彼女できないじゃん」
「そういうところだぞ」
「どういうことだ?」
「お前、単に彼女が欲しいだけじゃん。その子が好きだから付き合いたいってわけじゃないだろ」
「え? それ、言ってること変わらないだろ」
「……それがわからないなら、無理だな」

正直、康太が何を言ってるのかわからなかった。

「……康太のやつ、何が言いたいんだよ」

学校の帰り道。
何度も康太の言ったことを思い出して考えてみる。
だが、一向に何を言いたかったのかがわからない。

「……俺は単に、彼女が欲しいだけなのに」

そう呟いたときだった。

「彼女が欲しいのかい?」

そう言われて、立ち止まると、道の端に占い師がいた。
机と向かい合わされた2つの椅子。
路上の占い師というやつだ。

占い師は70歳くらいのおばあちゃんだった。
しわくちゃな顔に、肩くらいまで伸びたボサボサの白い髪。
ニヤリという笑顔は愛嬌よりも不気味さが漂う。

俺は無視して通り過ぎようとした。
が。

「500円で彼女ができるよ」

占い師のその言葉に思わず、立ち止まってしまう。

「いや、500円じゃ無理でしょ。っていうか、そもそもお金の問題じゃないでしょ」
「私にかかれば、あなたにモテ期を到来させることができるよ」

ヒヒヒと笑う占い師に、少しだけ背筋が寒くなる。
だが、たった500円でモテるなんて聞けば、それがたとえ嘘だったとしても、男としては無視できないだろう。

「ホントに500円で?」
「ああ。500円でモテモテだよ」

正直、500円をドブに捨てると考えると痛い。
けど、それでも、モテる方法があるというのであれば、試したいというのが男心というものだろう。

「わかった。はい、500円」
「毎度あり」

そう言った後、占い師は目の前の水晶玉に手をかざし、なにやらつぶやき始めた。

「はい。これであんたにモテ期が到来したよ」
「……はは。嘘くさいな」

俺はそのとき、完全に金をドブに捨てたと諦めた。

「拓真くんってさ、好きな人いるのかな?」

「もし、良かったらだけど、今度のお休み、一緒に遊びに行かない?」

「ねえ、私と付き合ってくれないかな?」

それはもう、入れ食い状態だった。
1週間で5人に告白されてしまった。

占い師の言ったことは本当だった。
どうやら、俺にモテ期が到来したようだ。

「……で? なんで、返答を保留にしてるんだよ?」
「え? だってさ、1人としか付き合えないんだぞ?」
「お前、前にたった一人でも俺を好きになってくれる女の子がいれば、それでいいって言ってたじゃねーかよ」
「けどさ、これだけ入れ食いなんだぞ? どうせなら、一番いい子と付き合いたいじゃん。実は今日の放課後も呼び出されてるんだ」
「……お前、そんな考えだと、足元救われるぞ」
「ねーよ。お前、俺にモテ期がきたから、嫉妬してるんだろ?」
「そんなんじゃねーって」

それから数日後のことだった。
康太が言った言葉が現実なものになる。

女の子たちの中で、俺が何股もしているという噂が流れた。
たくさんの女の子に告白されて、選んでいると。

まあ、正直に言って、その通りだったんだけど。

当然、告白された女の子から全員、掌を返された。

そして、また、俺の方から告白する頃に逆戻りする。

「ごめんなさい。好きな人がいるの」

「拓真くんって、いい人だけど恋愛対象に見れないのよね」

「無理」

聞き慣れた断りの台詞。
何人に告白しても、断られてしまう。

あれから、あの占い師がいた場所を何度も通りかかったが、一度もあの占い師を見つけることはできなかったのだった。

終わり。

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