損な人生

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僕は生まれつき、体が弱い。

だから、よく風邪をひいて寝込んだりする。
そして、学校行事があるときに限って熱を出してしまう。

遠足や運動会、学芸会、修学旅行。
小学校の時はほとんど、参加できなかった。

修学旅行くらいはいきたかったんだけど。
まあ、40度の熱が出れば仕方がない。

そして、それは中学校はもちろん、高校生になった今でも続いている。

「健太は人生、結構、損してるよね」

そう言って、額に乗せてある冷却シートを取り換えてくれる真奈美。

彼女はお隣さん。
いわゆる幼馴染というやつだ。
俺が熱を出すたびに、やってきて、こうして看病してくれる。

「真奈美だって人のこと言えないだろ」
「へ? なんで?」
「……俺の看病ばっかしてるじゃん」
「あははは。そういうことか」

真奈美はさすがに俺ほど、学校行事を休んではないが、小学校の頃は遠足とかサボって俺の看病をすることもあった。
そして、あとでそれを親に見つかって怒られたりしていた。

「今日だって、ホントは亮介たちと雪祭りに行くはずだっただろ」
「別にいいのよ。私、寒いの苦手だし」
「……そっか」

真奈美はそう言っているが、かなり雪まつりを楽しみにしていた。
そもそも雪まつりに行こうと言い出したのは真奈美だった。

「あのさ、真奈美」
「ん?」
「……気を使われるのって、逆に、辛いこともあるんだぞ」
「……」

自分で言っておいて、最低なセリフだ。
楽しみにしていた雪まつりを犠牲にしてまで俺を看病してくれている真奈美に対して、余計なお世話と言ったようなものだろう。

こんなことを言われたら、誰だって、は? って思うだろう。
俺だって、そんなこと言われたらブチ切れてしまうはずだ。

でも、それでも、俺は言いたかった。
真奈美に嫌われることになっても。

真奈美は俺にとって、大切な幼馴染だ。
だからこそ、これ以上、俺に付き合って、損な人生を進んで欲しくない。
俺なんか気にしないで、真奈美は真奈美の人生を謳歌してほしいのだ。

「健太こそ、わかってないわね」
「……なにが?」
「気を使ってるわけじゃないってこと」
「……いやいやいや。その発言自体が、気を使ってるだろ」
「どっちかというと逆だよ」
「……逆?」
「私が健太を利用してるの」
「……」

一体、何を言ってるのかわからない。
俺を利用している……?
どうやって?
俺は単に寝ているだけだ。
そんな俺に付き合うことが、なんの利用になるのだろうか?

「健太が熱を出すから、こうやって看病ができるんじゃない」
「……どういうことだよ?」
「だーかーら。熱で動けないから、一緒にいられるでしょ」
「……」
「普段だったら、恥ずかしがって2人きりになんてなってくれないじゃない」
「あ、いや……その……」
「あははは。健太が損してる分、私が得をさせてもらってます」

にこりと笑う真奈美。

一気に熱が上がっていく感覚がする。

「お、お前、看病するはずが、悪化させてどうするんだよ」
「ふふ。ごめんね」

そう言って、真奈美は取り換えたばかりの冷却シートを剥がして、新しいのを貼ってくれる。

それでも、この熱は冷えることはない。

この時、初めて俺は損な人生も悪くないって思えたのだった。

終わり。

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