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中学1年生のとき、私は大失恋をした。

相手は幼馴染の光一だ。

光一とは幼稚園のときからの付き合いで、親同士の仲がいいということで、しょっちゅうお互いの家を行き来していた。
いつも一緒に遊んでいたし、光一の部屋に泊まりに行ったり、光一が私の部屋に泊まりにきてたりと、ほぼ、家族のような存在だった。

ありがちな、将来結婚しようっていう約束なんかもしてて、私はもちろん、お互いの親もそうなるだろうと思っていたはずだ。

中学生になる頃にありがちな、急に相手のことを異性と意識し始めてギクシャクする、なんてこともなかった。
たぶん、私は最初から光一のことをちゃんと男として見てたからだと思う。

中学生にもなれば、中にはチラホラと付き合う子とかも出てくる。
私の親友である美香も、隣のクラスの男の子と付き合っていた。

美香から毎日のように、のろけ話を聞いていれば、そりゃ、私も憧れるってもの。
しかも、私と光一は親公認。

付き合ってしまえば、学校の行事や夏休み、冬休みなんかも大手を振って一緒にいられる。
イチャつける。

だから、私は告白した。
もちろん、光一に。

で、あっさりとフラれてしまったわけだ。

かなりショックだった。
一週間、学校を休んで泣いてたと思う。

そして、私はそのときに学んだ。

恋なんてするものじゃないと。

だから、私は恋をしないように慎重に慎重を重ねて生きてきたのである。

「高槻くんってさー、格好いいよね」

一緒にお弁当を食べているときに、美香がポツリと言った。
もちろん、私は無視する。

「ねえ、紗矢はどう思う?」

せっかく無視してたのに、追撃をしてくる。
私としては、正直、この手の話はしたくない。

なぜなら、私は今、恋に恋するお年頃ってやつだ。
恋バナなんてして、恋心を刺激されれば、恋をしてしまうかもしれない。

「どうだろ? 私はちょっと苦手なタイプかな」
「ええ? そうなの?」

驚いて目を丸くする美香。

ちなみに、美香は中学の時に付き合っていた男の子に、1年ちょっとで別れを告げられている。
美香もかなりショックを受け、1ヶ月は立ち直れなかった。
そのときに、私と恋なんてしない同盟を結んだはずだったのだが……。

その3ヶ月後には新しい人を好きになったって言って、裏切られた。

当然、高校に入ってからも、美香は恋を探して、日々、目をギラつかせている。

「紗矢はどんな男の子がタイプなの? てか、ぶっちゃけ、誰が好き?」
「……好きな人はいないかな」
「え? 嘘。高校2年にもなって、好きな人いないの?」

正確に言うと好きな人ができないように努力しているだけだけど。
でも、いくら高校生でも、恋をしていない人だっているはずだ。
当たり前のように言わないで欲しい。

「紗矢は、もう少し男の子に興味もった方がいいよ。そんなんじゃ一生、彼氏できないよ?」
「あはは……」

それでいいのだ。
彼氏なんて作ろうとするから、フラれて痛い目に遭う。
なら、最初から恋なんてしなければ、痛い目に遭うこともない。

だけど、高校内は危険がいっぱいだ。

「ねえ、みんなでカラオケ行くんだけど、三宅さんも行かない?」
「行かない!」

「ここ、わからないんだけど、教えてくれねーか?」
「いや、無理」

「こうやってさ、2人だけだと、ちょっとドキドキするよな」
「全然」

なんていうか、そこら中に罠が仕掛けられている。
なるべく男子に近づかない様にしているのに、向こうから来たり、学校行事の関係上、男子と組まされたり、ちょっとしたアクシデントがあったりと、まあ、何かにつけて恋が私を狙ってくる。

だから、私はその場ですぐに恋の目を摘み取る。
育ってしまうと、どうしようもなくなる。

危険はすぐに察知して、対応する。
それが私のモットーだ。

だがしかし、高校というところは、まさしく恋のジャングル。
思わぬところで、猛獣(イケメン)に遭遇することも多々ある。

「三宅ってさ。すげー可愛いと思うぞ。もっと自分に自信持てよ」
「はうっ!」

避けきれず、被弾し、鼻から出血することもある。
そして、猛獣という輩は弱った獲物に対して畳みかけてくるものだ。

「俺、三宅のいいとこ、たくさん知ってっから」

こうなると、仕方ないので伝家の宝刀を抜くしかなくなる。

「私、女の子が好きなんだよね」
「そ、そう……なんだ」

この刀で倒せなかった相手はいない。
まさに最強の刀だ。

ただ、これはいわゆる諸刃の剣で、私の評判も一緒に切り捨てていくことになる。

とにかく、私はそこまでして、この恋という怪物を避け続けているのだ。

だけど、そんなある日。

いきなり光一が私の家にやってきた。
光一とは、中学の時にフラれてから話していない。
高校だって、わざと別のところにしたのだ。

「今、ちょっといいか?」
「……なに?」
「お前ってさ、今、付き合ってるやついるのか?」
「……なに、急に? いるわけないでしょ」
「そっか……」

なぜか嬉しそうな顔をする光一。
その顔が、ちょっとイラっとした。
誰のせいで、今、こんなことになってると思ってんだ。

「なあ、紗矢。俺と……付き合ってくれねーか?」
「……は?」

家だからと油断しきっていた。
しかも、相手は1度、私をフッた張本人だ。
まさか、告白されるなんて、夢にも思ってなかった。

「ちょ、何言ってんのよ! 私をフッたくせに」
「違うんだ! あれは……」

バツの悪そうな顔をして、光一が言葉を続ける。

「あれはさ、なんていうか、急にお前のこと女って意識したら恥ずかしくなって……」
「……恥ずかしい?」
「ホントはさ、スゲー嬉しかったんだよ。俺も紗矢のこと好きだったからさ」
「……」
「でも、なんつーか、友達からも冷やかされて、恥ずかしくなって……それで……」

ビキっと、こめかみの血管が浮き出るのを感じる。

「ふざけんなー!」
「ぶへ!」

私は思い切り、光一の頬をビンタした。

光一のくだらない恥ずかしいという意味不明な理由で、私は約4年を無駄にしたことになる。
私のあの、必死な努力はなんだったんだろう。

ホント、恋って怖い。

終わり。

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