「愛の重さはね、プレゼントの額で決まるんだよ」
高校のときに付き合ったときの、彼女の言葉だ。
……いや、果たして付き合ったと言っていいのか微妙なところだな。
何しろ、彼女の彼氏は俺以外にも3人ほどいた。
もちろん、そのことは知っていたし、他の2人も俺の存在を知っていたと思う。
だけど、他の2人は俺に嫉妬するようなことはなかった。
なんていうか、その他の2人も複数彼女がいたと聞いている。
だから、その当時、俺が彼女の本命だと思っていた。
今考えると恥ずかしくなるくらいの自惚れだ。
彼女は学年でも可愛くて有名だった。
ひっきりなしに色々な男から告白されていたって噂だ。
そして、みんなフラれていった。
俺もその例に漏れず、玉砕覚悟で告白したら、すんなりとオッケーを貰えたのだ。
……あのとき、怪しむべきだったよなぁ。
俺の家は、親父がベンチャーの会社を起業して、そこそこ成功してたから金持ちだった。
周りもそう思っていたはず。
で、最初の彼女の言葉だ。
つまり、彼女にとって、俺は貢がせるための男だったんだろう。
当時は気づかなかったけど。
ただ、家が金持ちだからと言って、子供の俺も金持ちということはない。
小遣いだって、人並みだったし、欲しい物をねだっても、買ってもらえる方が断然少なかった。
だから、俺は高校生の身分ながら、必死にバイトをしていた。
給料日が来れば、彼女にプレゼントする。
それの繰り返しだった。
「いい加減、気づけば?」
これはクラスで隣の席になった、大場美沙の言葉だ。
今、考えれば、俺は彼氏ではなく単なる金づるだってことを言いたかったんだろう。
だけど、いきなり、それだけ言われても、わかるわけがない。
「何の話だよ?」
「……別に」
そんな会話で終わってしまった。
高校3年になった頃。
さすがに受験があるから、バイトを辞めて勉強に集中することにした。
「じゃあ、愛はなくなったってことだね」
そう言って、彼女にはフラれてしまった。
彼女とデートしたのなんて、片手で数えられるくらいだと、そのとき気づいた。
どのくらい、彼女に貢いだかは……怖いので考えないようにしている。
おそらく、俺はこの、最初の彼女のせいで感覚が壊されてしまった。
女の子と付き合うには、常にプレゼントが必要。
無意識に刷り込みがされていたんだと思う。
大学に入ってから、サークルの先輩にプレゼントをして告白した。
告白の返事はオッケー。
そして、俺は高校時代にやったことを、律義にも大学でも繰り返した。
大学の思い出もバイトの日々だけで、先輩との思い出は皆無だということに、卒業のときに気づいた。
「ホント、学ばないね」
これも、大場美沙の言葉。
大学も一緒で、バイトに明け暮れる俺は、よく美沙に代返とノートを写させてもらうことを頼んでいた。
もちろん、時々、昼飯を奢った。
大学を卒業し、何とか就職にこぎつけた俺は、給料が少ないながらもなんとか一人暮らしができる程度の生活水準を維持していた。
「絶対、キャバクラとかガールズバーに行っちゃダメだから」
美沙の言葉だ。
美沙は俺と同じく地元を出て、上京している。
何かと、休みの日は一緒に飯を食うくらいの仲を維持していた。
「会社の付き合いとかでも行っちゃダメだからね」
「……わかってるよ」
俺自身、さすがに自分のことはわかってるつもりだ。
キャバクラなんか行こうもんなら、俺はあっさりとキャバ嬢に堕とされ、プレゼントを貢ぎまくることになるだろう。
だから、美沙の言うように、会社の付き合いでも「酒が飲めない」と言って避けているのだ。
とはいえ、俺ももう29歳。
そろそろ、彼女の一人も欲しいところだ。
いつ、付き合ってもいいように、多少のプレゼントをできるくらいは貯金もしている。
とはいえ、会社には出会いのチャンスはほぼない。
合コンなんてものにも行ってみたが、陽キャでもない、どちらかといえば陰キャな俺には辛い場だ。
ということで、俺は今流行りの、マッチングアプリというものを使うことにした。
女の子とやり取りして、会って、デートする。
デートなんて大学以来だったから、俺は結構、テンションが上がっていた。
「……マッチングアプリかー。禁止するの忘れてた」
これは昨日のデート後、つまり今、美沙に言われた言葉だ。
美沙の話によると、マッチングアプリで出会った男に、ぼったくりの店に連れていき、金を巻き上げるという詐欺が割と流行っているらしい。
それに俺は引っかかった。
見事に。
初デートってことで、プレゼントを渡した上に、ぼったくられたのだ。
「俺って、もう結婚できないかも」
というか、もう女性不振になりそうだ。
俺は何度も、高額なプレゼントを貢いだのだ。
これからも、それが続くと考えると、独身を貫いた方がいいんじゃないかと思う。
「なら、私と付き合ってみる?」
美沙の言葉だ。
「……昨日、ぼったくられたせいで、プレゼント買う金ねーよ」
「いらないよ。……っていうか、もう貰ってるし。プレゼント」
「へ?」
何を言ってるんだろう。
高校の時まで遡って考えてみるが、俺は一度も美沙にプレゼントなんて渡したことはない。
「あんたと一緒にいる時間。それが私にとってのプレゼントだよ」
俺は笑ってしまった。
それならいくらでも貢げるぞ、と。
終わり。
コメント