凍てつくほど愛してる

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何度、裏切られてきたことだろう。

どんなに愛しても、この想いは決して届くことはない。
思いを伝えると、みんな逃げて行ってしまう。

あれほど、愛を誓い合っていたのに。

でも、その気持ちも理解できる。
だからこそ、相手の男を憎み切れない。

憎めたら、どんなに楽だろうと思う。

憎むことさえできれば、もう、男を愛すなんてできなくなるはずだ。

でも、それでも、いつも愛してしまう。
頭でどんなに理解していても、気持ちが暴走してしまうのだ。

告白する前にいつも思う。

黙っていればいいだけなのに、と。

でも、やっぱり期待してしまう。

この人なら、本当の私を愛してくれるのではないかと。

「私は雪女です。それでも、愛してくれますか?」

本当の姿を見せて言う。

「うわあああああああ! 化け物だぁ!」

今回も男は叫び声をあげて逃げていく。

これで何度目だろうか。

もう疲れた。

どうせ、人間となんて結ばれても不幸になるだけだ。

もう誰も愛さない。
そう、心に誓った。

「ありがとうございました。おかげで命拾いしましたよ」

そう言って、青年が笑った。

青年は冬山の中、全身傷だらけで、ほぼ裸のような格好で倒れていた。

最初は無視しようと思った。
だが、このまま放っておけば、確実に青年は死んでしまうだろう。

助けるだけ。

そう思って青年を助けた。

1週間ほど看病を続けると、青年は目を覚ました。
そして、笑顔でお礼を言ってくれたのだ。

屈託のない笑顔に、凍てつく心に小さな熱が灯る。

ダメだ。絶対にダメだ。
あんなに、強く決意したのに。

心に灯った暖かい感覚を必死に消そうとする。
だが、消そうとすればするほど、その小さな火は強く、大きく燃え上がってしまう。

青年が目を覚ましたからと言って、すぐに放置するわけにはいかない。
まだ、随分と体が弱っている。

完全に回復するまで、と自分に言い訳しながら、青年の介抱を続けた。

そして、気が付くと、青年と暮らし始めて3年が過ぎていた。

心に灯った愛の火は、今では胸を焦がすほどの炎になっている。

そのとき、つい思ってしまう。

この人なら、本当の私を愛してくれるのではないか、と。

その日の夜。
意を決して、告白しようとする。

が、しかし。

「……あの、実は、大事な話があるんです」

青年が先に、真剣な顔をしてそう言った。

「助けてくれて、本当に感謝してます。一生かかっても返せないほどの恩を貰いました。……でも、だからこそ」

青年は言い淀んだが、やがて決心した表情でこう言った。

「お別れしないといけません」

まさか、こちらが告白する前に別れを告げられるとは思ってもみなかった。
もしかすると、既に自分が雪女だと気づかれたのかもしれない。

そう思った。

だが、どうやら違ったようだった。

「……俺はあなたのことが好きです。愛しています」
「それなら、どうして別れるなんて言うの?」
「あなたとの思い出を、綺麗なまま、終わらせたいからです」

何を言っているのかわからなかった。
やはり、雪女だということがバレているのかもしれない。

「あなたはきっと、俺のことを嫌いになる。怖くなる」
「そんなことないわ」
「いえ。それは仕方ないことなんです。だから、あなたのせいじゃないんです」
「……どういうこと?」

青年は一度、顔を伏せた後、顔を上げて真剣な表情で見てくる。

「実は俺、鬼なんです」
「え?」

青年はそう告白すると、本当の姿を見せた。
浮き出てくる角と、せり出す牙。

それは人間が見ると、本能的に恐怖を避けることができない姿だろう。

でも、私は思わず笑ってしまった。

それから10年後。
私は今でも青年と一緒に暮らしている。

終わり。

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