人真似

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 僕は真似っこが得意だ。
 
 犬とか猫とか、スズメとか牛とか豚とか、いろんなものの真似ができる。
 でも、一番得意なのが人の真似だ。
 
 その人の正面に立って、真似をする。
 そしたら、まるで鏡に写っているみたいな感じになる。
 
 これをやると、結構、みんなに喜ばれるんだ。
 
 それで、最近は勝負をすることが多い。
 
 その勝負って言うのが、3分間、ちゃんと真似ができたら50円もらって、できなかったら50円払うってもの。
 
 実は結構、これでお小遣いを稼いでいたりするんだよね。
 負けたことないし。
 
でも、このことはお母さんには内緒にしてる。
こんなことしてるのバレたら、絶対に怒られるから。
 
「ふふふ。私と勝負しない? 私があんたを負かしてあげるわ」
 
 学校から一人で帰っているとき、突然後ろから声をかけられた。

 驚いて振り向くと、そこには真奈美ちゃんが立っていた。
 真奈美ちゃんは一緒のクラスの女の子で、何かと僕にちょっかいをかけてくる。
 
 ちょっと苦手な子だ。
 
 でも、みんなと勝負してるのに、真奈美ちゃんにだけ受けないわけにはいかない。
 
「いいよ。3分ね」
 
 僕は持ち歩いている3分の砂時計をひっくり返して、真奈美ちゃんの正面に立つ。
 
 あんまり女の子と勝負しないから、ちょっとドキドキする。
 
「じゃあ、行くわよ! えい!」
 
 真奈美ちゃんが右手を挙げた。
 僕もすかさず右手を挙げる。
 
 左右に体を揺らす真奈美ちゃん。
 僕も左右に体を揺らす。
 
「へえ、やるじゃない」
 
 感心した真奈美ちゃんは、もっと素早く動く。
 でも、僕も負けてない。
 ちゃんと真奈美ちゃんの動きに合わせる。
 
 そうしてるうちに、砂時計は落ちて、大体あと30秒くらいだと思う。
 このままなら勝てそう。
 
 そう思っていると、真奈美ちゃんが手を広げて、僕の方へ出してくる。
 僕も同じように手を広げて、真奈美ちゃんの手の平に重ねた。
 
 まるで鏡を触っているような感じになる。
 
 あと、10秒。
 勝てそうだ。
 
 だけど、そのとき、真奈美ちゃんが口を突き出してきた。
 僕も同じように突き出す。
 
 そしたら――。
 
 チュッ。
 
 僕は真奈美ちゃんとキスしちゃったのだ!
 
「ああっ! ごめん!」
 
 慌てて僕は後ろに仰け反る。
 
「ふふふ。私の勝ちね」
 
 にっこりと笑う真奈美ちゃん。
 
 僕は真奈美ちゃんに50円を渡した。
 
 でも、不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。
 
 終わり。

 

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